- 日本で最も理美容室を知る消費者
- 小俣洋市だから言える「ホンネ」
皆さんを見続けてきたから「見えること」
日本政策金融公庫が三ヶ月ごとに発表している、全国中小企業動向調査によると2010年1月~3月までのヘア産業のデータは、日常生活において消費者が美容室・理容室を利用しなくなった風俗文化が拡大していることを裏付ける結果となりました。
美容店の黒字は100のうちの8店舗しかない。さらに理容室の黒字は100のうちの7店舗しかない。
赤字でもはや「業」として成立していない店舗数が半数以上も存在します。
そして最も注目してほしいのは、収支トントンのサロンの割合です。
売り上げた金と出て行く金が一緒であることを、収支トントンと表現しますが、店舗というものは生鮮品と一緒です。旬を過ぎればリニューアルしなければお客様に飽きられます。
フロアや壁の汚れも定期的にメンテナンスしなくてはいけません。
猛暑の日に限ってエアコンは壊れるし、ボイラーも寿命が訪れます。
つまり、こうした予期できる出費に対応できるように、健全な企業であれば毎月の利益の中から少しずつ予備の蓄えをしています。これを「内部留保」というのですが、収支がトントンであれば店舗の鮮度維持に手をつけられず、客離れは加速します。
これは赤字店と同じでやはり「業」として成立していない仲間に入ります。
以上の判断から推察できる結論は、ヘア業界の大多数のサロンが「食べていけないその日暮らし」の経営を余儀なくされているわけです。
よくもまあ、こんなにひどい状況になるまで、何の対策も講じずに放っておいたものだとあきれるほかありません。
私も仕事柄、様々な業界を見させてもらっていますが、日本国中が「景気が悪い悪い」とため息ついているけれど、ヘア業界ほどひどい状況は見たことがありません。
人間の身体で言えば、リーマンショック以降何とか生きながらえている、自動車・家電業界は初期のがんで治療を受け快方に向かっている状態です。
少子化で激戦が慢性化している進学塾業界は慢性の通風です。両者も適切な治療と生活管理を怠らなければ、命に別状はない。
それらから比べれば、ヘア業界は手の施しようのない末期がんですよ。
余命を宣告されています。
今となっては遅きに失しますが、人間の身体もお店の経営も同じです。
「ちょっと風邪をひいたかな?」
ぐらいであれば、体調管理に気をつければすぐに回復します。わずかな出費でサプリメントを買って服用すれば立ち直ります。
ところが、末期のがんとなってしまっては、治癒までに相当の時間がかかりますし、治療費の負担も莫大です。どうにも手の施しようがなくなれば、治療方法も限られてきます。
ヘア産業がおかれている今の現状は、まさに万策尽きたといっても言い過ぎではありません。
ニューヘアを発表しても、新しい売り方やキャンペーンを訴求しても、一時的な延命策であって、根本的な治癒には至りません。
唯一、業界を立ち直らせるには、「業態転換」という方法しか残されていないのです。
つまり、患者の手術で例えれば、腐りきった病巣を全て取り除き、新しい部位を移植手術することです。
この「業態転換」については、後ほど詳しく説明しますが、ここではまず真正面で業界の本当の姿に目をそらしてはいけません。
病気の根本的治癒は、患者が進行具合に目を背けずに真正面から立ち向かうことで、奇跡を呼び起こすのです。
消費者に必要とされなくなる本当の理由
長髪文化の浸透(ライフスタイルの変化)
ヘア産業が隆盛を誇っていた頃、中学校の男子生徒手帳にはこんな校則が明記されていました。
「頭髪の長さは10ミリまでとする」あるいは女子には同じく「肩にかからない長さとする」という具合に、身だしなみについて学校のルールが存在していたのです。
ところが今はそんな校則を儲けている学校は、ごくごくわずかになってしまいました。
変化が起きたのは学校現場ばかりではありません。
社会人のヘアスタイルも以前までは、企業が介入してきました。
「そんなみっともない頭では、お得意先周りができないから何とかしてきなさい!」と上司が部下に対して、業務命令の一環として身だしなみについての指導をしてきました。
周りを見渡してみてください。
営業マン、外回りの多いサラリーマン、駅員、官公庁。およそ人前に出る職務の皆さんも「以前ではこの髪型はアウトだったろうな。」という長髪の方が、若者中心にすごく多いはずです。
人々の日常生活に、毅然とした身だしなみに対するルールはもはや存在しません。
変わって台頭したのは個人主義によって多様化した、ファジーな寛容性です。
息子の髪が長くても家庭では注意しません。
学校も企業も、一個人のヘアスタイルについてとやかく言わなくなってきているのです。
女性社員にもし、「キミのヘアスタイル何とかしなさいよ!」と髪を触って指導する上司がいたらすぐにセクハラとか、個人のプライバシー侵害などと逆に訴えられるほどです。
日本のヘア産業はなぜ、隆盛を誇った時代があったのか?
それは一にも二にも「身だしなみ」の訴求による、世界では極めて珍しい特殊マーケットが存在したからです。
それは刀と槍で国捕り合戦をしていた源平時代から形作られ、天下泰平の武家文化、町人文化の長い歴史によって大成された「恥じる」という文化が、私たち現代人の血の中にも受け継がれてきた国民性によります。
人前に出るには身だしなみをきちっと整える習慣性、それこそがヘア産業の受けてきた多大な恩恵だったわけです。
ところが、街を歩いてみてください。
若者はコンビニの駐車場でそのまま座っているし、女性は朝の通勤電車の車内でメイクをしています。ただでさえ足が短い民族なのに、そんなにズボンをずり下げてみっともなくない?と首を傾げたくなる若者。身だしなみの文化が薄れると、明らかにヘア産業は衰退します。
さて、過去の栄華を取り戻すにはどうしたらよいのか?
身だしなみじゃなくて徹底的にデザインやファッションを売りにしますか?
美容も理容もその路線にシフトしてきて10年以上になるでしょうか?
今の衰退度合いから推し量ると、明らかに失敗でしたね。
個性的に細分化された消費者の志向は、自分でオシャレやデザインを楽しむライフスタイルに変わってきました。
皆さんがデザインやファッションを表看板に掲げるたびに、消費者はそれを自分で工夫して取り入れるようになります。
プロの目から見てヘンでも、みんなが個性化しているから、一般の中に入れば全然ヘンじゃなくなります。男性も女性も、今までかつてないほどにヘアスタイルの種類は多様化していませんか?
プロの技術を当てにする消費者は、自分でやるのがめんどくさいか、「自分でやるなんてとんでもない、もし失敗したらみっともないじゃない。」と、日本人ならではの恥じる文化を大切に守っている方。そして「プロにやってもらうのが一番!」という、髪に対するステータスを持つごく一部の消費者だけです。
私は皆さんの業界がかつての栄華を取り戻すには、まず第一に「身だしなみの文化」を復活させることしか方法はないと断言します。
「身だしなみ」を切り口に、サロンを頻繁に利用していただく。半年に一回ではなく、半月に一回。二ヶ月に一回ではなく二週間に一回。そのくらいの頻度で来店していただける土壌をもう一度この国に根付かせることです。
デザインやファッション性を売るのは、まず身だしなみのマーケットを確立してからです。
現在のヘア業界を見るに、これに対してまったくお手上げの状態です。
やらなければいけないことがあるのに、指をくわえて地盤沈下を傍観者のように眺めているのですから、一消費者の私から見れば歯がゆいばかりです。
ハンドメイド器具商材の普及(商環境の変化)
理容を襲った第一波の津波は、ムース、ワックスといった市販整髪料です。
おりしも業界はナチュラルな空気感というデザイン性に変化していきました。時を同じくしてこれらの市販商材の一般普及が目覚しく伸びていきます。
「身だしなみ」を売りにした整った髪型、今までのセオリーを踏んだ髪形ではなく、自由に整髪料を使って消費者がデザインを楽しむ時代に変化していったのです。
そして現在バリカン、シザーバサミ、梳きバサミまで容易に消費者の手に入るようになりました。
対して女性はどうなのか?
巻き髪を自在にできる器材、ストレート風に仕上げられるアイロン、そして毛量の多い人でも、ボリュームを出さずにスタイリングできるトリートメントなど、メーカーは先を争ってハンドメイド市場を形成しつつあります。
かつてはこれらメーカー、商材サプライヤーはサロンがお得意様でした。
一般売りを始めれば、お得意様に迷惑がかかるわけですから、その聖域には踏み込まないのが商慣習のルール。
ところが売上の落ちていくサロンの姿を見て、手のひらを返すように商売相手を変えたのです。
つまり、サロンの最大の理解者であり、パートナーだった企業からも、ヘア業界は見限られたという見方が正解でしょう。
このままでいくとホームケアは、間違いなく新しい市場として成長していくでしょう。
その成長ごとに街場のサロンの経営は苦しくなります。
ニーズの不一致
消費者がサロンに抱く不満足を順番に明記しました。
1、いつも店内で待たされてしまう。
2、希望していない部分までカットされてしまう。
3、カウンセリングの時と仕上がりのスタイルが違う。
4、静かにしていてほしいのに会話がとまらない。
5、余計な商品まで勧められる。
6、必要と思わないメニューまでされてしまう。
7、プライベートにまで入りすぎた接客がわずらわしい。
まず一番目の不満足について、心当たりのあるサロンも多いのではないでしょうか?
大体客商売は、暇なときは本当に何もすることがないのに、お客様が来店しだすと数珠繋ぎで来られる。
これはどんな商売にも言えることです。
対して消費者の不満足はここに多くが集中します。
現代社会は携帯電話やインターネットにスケジュールを管理され、男性も女性も独身者もミセスも高齢者までとにかく忙しい。
土日しか休みの取れないサラリーマンは
「床屋さんに行くと3時間だもんね。」3時間潰れるということは、そのお客様の予定が半日潰れるということになります。
「美容室でオシャレもしたいんだけど、時間がかかりすぎてね。」
過去に来店したときの滞在時間が、記憶に刷り込まれていますから、足が遠のいてしまうわけです。
よく、美容室は特別な体験をしたいお客様がゆっくり時間をかけてオシャレを楽しむ場所と形容されていましたが、その特別な体験のために最低一ヶ月に一度は来店を約束いただければ経営上何の問題もありません。
サロンに保管しているカルテを調べてください。
一ヶ月に一度来てくださるお客様がどの割合いますか?
どんなに好成績のサロンでも20%は行かないでしょう。
それでは商売にならないのです。
このニーズのずれが、サロン側には骨身に染みていない。
何の対策も講じずに来た結果が、疎遠客を量産する結果になっています。
世の名にもこれだけ不思議なことはないと思われるのが、次の「希望していない部分までカットされてしまう。」「カウンセリングの時と仕上がりのスタイルが違う。」という不満足です。
多くの男女を受け入れるサロンは、施術前に「カウンセリング」なるコミュニケーションをお客様との間で行います。
そして合意に至り、施術に入るわけですがサロンから出てきたお客様に聞き取り調査をすると70%以上の方が、仕上がりに不満足を抱えているという現象です。
よくよく突っ込んで聞き取るとさらに判ってきたのが、「希望していない部分までカットされてしまう」という不満足が引き金になっていたということです。
それじゃあカウンセリングなんていらないじゃないの。という結論になりますが、サロンの技術レベルの低下に伴い、それをコミュニケーションで補おうとしているカウンセリング術なるものが台頭しています。
でもどれだけ口先で丸め込んでも、最終的に商品が粗悪であればこれは売り物になりません。
「本当に上手い」とお客様を唸らせるプロでなければ、真贋の見極めが厳しい消費者に満足を与えることはできない。その結果がこのアンケートによってジャッジされました。
次の「静かにしていてほしいのに会話がとまらない。」「余計な商品まで勧められる。」については今までもヘア業界に根強い不満足です。
これについては今更説明するまでもありません。
最近目立ってきたのが次の「必要と思わないメニューまでされてしまう」という回答です。
サロンの売り方は、戦後から変わらず俗に「セット販売」「定食販売」といわれる方法が定着していました。
ところが消費者自身がケアをする習慣性がつきました。
ワックスで自己流のスタイルを楽しむ若者や、毛染めを家庭でする方、そしてカット専門サロンの登場など、選択肢が広がってきたことで以前からの「セット販売」「定食販売」は窮屈になってきていることは否めません。
一方で、国内は景気沈滞といっても、飲食も物販も豊富な品揃えとサービスが私たちの日常生活に同居しています。
消費者は売り手や他人の意見に惑わされず、好きなときに好きなものを好きなだけ利用する習慣性がついてきました。
その巨大なニーズが明らかに存在しているのです。
ところがヘア業界だけが古くから続く劣化したビジネスモデルの上に胡坐をかいて、根本的に変えようとはしない。いつまでも自分たちの売り方はこれからも通用するとたかをくくっているのです。
量販慣れした消費者の購買意識
私たち現代人は、身の回りの日用品や食料品を買い求めるとき、そのほとんどは大型量販店を使います。
サロンに働くスタッフも一歩外に出て、お客様として他店を利用すれば、そんな消費習慣で生活をしているはずです。
量販店には、価格がリーズナブル、在庫や品数が豊富であるだけでなく、個人の嗜好や生活を売り手が干渉しないというメリットがあります。
賞味期限切れ間近の見切り品を買い物カゴに入れていても、子供を連れて行って特売品の卵の列に並ばせても、誰も何も干渉しません。
そして量販店を利用する消費者はこの気軽さと、プライバシーをブロックできる環境に慣れてしまっています。
ところがサロンに来ると、そのギャップに気づき不快感に発展します。
「この頃外食していますか?」
「最近映画見に行きましたか?」
「旅行お出かけになりましたか?」
スタッフは良かれと思ってコミュニケーションの糸口を見つけようと、会話を引き出すのですが、これが量販慣れした現代の多くの消費者にはつらい。
大したミスも犯していないはずなのに、どうして最近あのお客様パッタリと来店されなくなったのだろう?
失客した常連客の顔を思い出して、ミスの心当たりがないのでしたら、高い確率でプライベートに入り込みすぎた会話が原因である場合が多いのです。
こんな時代ですからよほど親しい常連客でも、個人の話題を持ち出すことはリスキーです。
逆にお客様の方から
「この前外食したんだけどね」
「おととい映画に行ってきました!」
と、個人情報を持ち出してくれた場合は、どんどん会話を膨らましてかまいません。
そう考えると、サロンの接客サービスは、お客様の会話をスムーズに引き出すためのトークから、お客様が自然に自分のことを話しやすい雰囲気を作るところに重きをおくべきでしょう。
サロンは本来プロの技術という商品を、お客様に提供することが職務の本分です。
施術に対する話題、プロの知識、お客様の毎日が豊かになれるヘアケアの情報、そしてお客様の髪を誉めることについてはいくらでも会話してかまいませんが、個人の話題には立ち入らないほうが、量販慣れした消費者を繋ぎ止める妙案です。





















































